「…漬物とご飯でいい」
介護における祖父母との食事(カロリー)戦争を繰り広げて何年位たつでしょうか。
介護初心者の頃、母だけのワンオペ介護への不安から一念発起した私は、自分の体調管理のためにも男料理の限界突破を図りました。
チャーハン・パスタの二刀流でやってきた男が、カロリーやタンパク質、ビタミンに塩分といった栄養にうるさい独身クッキングパパになるとは夢にも思いませんでした。
料理に関しては、また別の記事にするとしても高齢者の介護において「食事」との戦いは熾烈を極めます。
めちゃくちゃ考えた献立を差し置いてチョイスされる「漬物」に腹が立つんです。
もちろん浅漬け等の塩味も重要です。
「ぽりぽり」と美味しいですよね。
さっぱりとするし。
でも、その「ぽりぽり」が、嫌になっちゃうんです。
「漬物とご飯でいい」
これを言われる度にため息をつく介護者は、是非ご一読ください。
- 祖父母の介護経験:約10年
- 要支援1から要介護5までの介護経験
- 訪問看護での介護経験:約1年
- 自宅での看取り経験:祖父
高齢者と食事
75歳以上のカロリー摂取基準
下記の通り、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」参照体重における基礎代謝量表によれば75歳以上の基礎代謝量は、男性:1,280kcal、女性:1,010kcalとなっています。
データに年齢の上限がありますが、80代、90代と更に高齢になっていくほど基礎代謝量は減少していくことが予測できます。
【75歳以上】基礎代謝量 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
基礎代謝基準値 (kcal/kg 体重/日) | 21.5 | 20.7 |
参照体重 (kg) | 59.6 | 48.8 |
基礎代謝量 (kcal/日) | 1,280 | 1,010 |
※注意
各年齢層で重みづけをせずに平均値を求めている算出方法のため、身体活動レベル(推定エネルギー必要量÷基礎代謝量)や大きく基準から外れる肥満や痩せの場合は、推定誤差が大きくなります。
それでは1日にどの程度のカロリー摂取を目指せば良いでしょうか。
先ほどと同じく、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」推定エネルギー必要量からその指標となるデータを確認できます。
「基礎代謝基準値 × 参照体重 × 身体活動レベル = 推定エネルギー必要量」となります。
(※身体活動レベル=エネルギー消費量÷基礎代謝量)
【75歳以上】 推定エネルギー必要量 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
身体活動レベルⅠ(kcal/日) ・ほとんど外出しない者 | 1,800 | 1,400 |
身体活動レベルⅡ(kcal/日) ・ふつうの活動レベル | 2,100 | 1,650 |
※注意
身体活動レベルⅠの場合、少ないエネルギー消費量に見合った少ないエネルギー摂取量を維持することになるため、健康の保持・増進の観点から身体活動量を増加させる必要があります。
つまり、身体活動が少ない75歳以上の高齢者は、1日の推定エネルギー必要量である男性:1,800kcal、女性:1,400kcalを目標に摂取カロリーを調整したいところです。
また、発熱などの症状がある場合は、基礎代謝量が増加しますので水分補給とカロリー補給に注意が必要です。
高齢者と食事の「備え」
「元気な高齢者は肉をたくさん食べる」
やはり大切なのは高カロリーや高タンパクな食事を心がける事です。
胃ろうや点滴によるエネルギー補給を避けるためにも口から栄養を取るという当たり前な事が最も重要です。
介護とは、日々の生活で当たり前にできている事に感謝させてくれますね。
しかし、冒頭にもあるように好き嫌いや食欲不振、咀嚼や誤嚥機能に不安がある方など要介護者の状態によっては経口によるカロリー摂取がだんだんと困難になります。
これまで祖父母を介護してきた中で現場の先生や介護従事者の方から様々なアドバイスをいただきました。
その中から手軽にカロリー摂取を補助できる商品をいくつか紹介したいと思います。
森永製菓 in ゼリー(ノーマルタイプ)
なんといってもゼリータイプで飲みやすく、一個で180kcalを摂取できます。
ビタミン補給が併せてできることも嬉しいです。
小分けして飲みやすく、発熱時によく冷やすことで氷嚢のように握っている心地よさがあったようです。
明治 メイバランス
メイバランスは、色々な味で200kcalも摂取できます。
いつものご飯1杯分のカロリーを摂取できることから1日に飲むお茶一杯ををメイバランスに変更できるとカロリー補助として理想的です。
アボット エンシュア・リキッド
この商品は、訪問看護で医師や看護師から紹介された商品です。
一般認知度は低いですが、医療従事者や介護に従事されている方々にはポピュラーな商品のようです。
少しクセがありますが、1缶(250mL)中 250kcalと高カロリーです。
手術後の栄養保持や長期に渡って経口による食事が困難な場合、経管栄養補給にも使用される商品です。
保険適用商品ですが、症例に合わない場合も処方箋のいらない一般用医薬品としても購入可能です。
※注意
昨今の世界情勢によりシリーズ内の人気商品であったバニラ味の発売中止が2023年1月に発表されました。
番外編
ジュースやアイス、プリンや果物は高齢者が比較的受け入れてくれやすい高タンパク高エネルギーなアイテムです。
それぞれの持病や状況に合わせて「おやつ」を工夫するのもカロリー不足への対策となります。
点滴という名の「最後の砦」
経口による食事が困難となった場合、多くの方は胃ろうを選択しません。
しかし、点滴のみでの栄養摂取を常態化させることはできないのです。
嚥下機能が低下し、経口での飲食が不可能となり誤嚥性肺炎も誘発してしまいます。
また、高齢者の場合、点滴での摂取量や点滴速度の限界があります。
循環血液量過多になると心不全の危険性があるためです。
このことにより高齢者の点滴は、摂取量が少なく時間が掛かります。
通院自体で疲労困憊の高齢者や介護者の大きなストレスとなるのです。
もちろん一時的に点滴を利用することは、非常に有効な対策ですので医師とよく相談することが重要です。
一方で大変悲しい事ですが、高齢者にとって点滴のみが栄養摂取の方法となった場合、家族は老衰への覚悟が必要なのです。
私も祖父の点滴が常態化し始めた当初は、別れを覚悟しなければならないとはよく理解していませんでした。
介護と食事のまとめ
高齢者の食事の介助や献立作りは非常に大変ですよね。
楽しく前向きに高齢者との食事を楽しめる様に普段からコミニュケーションを図り、カロリーや栄養に気を配っていくことが大切です。
「最後の晩餐」は、誰にでも訪れます。
そのときに本当に口にできるものは何になるのでしょうか。
そして誰の手で食べているでしょうか?
今のうちから家族にたくさん感謝をしながら「当たり前の日常」を過ごしたいものです。
そして、世のお母さん達は本当に偉いです。
これが365日、毎日続くのです。
本当によく頑張っていると思います。
たまにはワガママを言って好きなものを沢山食べてください。
食べられるって幸せなことですから。
介護は家族みんなで頑張ろう。